皆さんは「連合」と「共産党」という言葉を聞いたことがありますか?どちらも労働者の権利を守るために活動している組織なのに、なぜか仲が悪いようです。一体なぜなのでしょうか?今回は、この不思議な関係の裏側に迫ってみましょう。
連合って何者?
まず、連合(正式名称:日本労働組合総連合会)について簡単に説明しましょう。連合は日本最大の労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)で、約700万人の組合員を抱える巨大な団体です。労働者の賃上げや労働条件の改善のために、経営者側と交渉したり、政府に働きかけたりする重要な役割を担っています。
連合は、様々な業界の労働組合(産業別労働組合)と、地方ごとの労働組合の連合会で構成されています。つまり、会社員や公務員、パート労働者など、多様な立場の人々の声を集める「労働者の代表」的な存在なのです。
連合と共産党との確執の始まり
さて、ここからが本題です。なぜ連合は共産党と仲が悪いのでしょうか?その理由を理解するには、少し歴史をさかのぼる必要があります。
1989年、連合が設立された時、実は共産党系の労働組合は合流しませんでした。代わりに、「全国労働組合総連合(全労連)」という別の組織を作ったのです。これが、両者の対立の始まりでした。
でも、なぜ一緒にならなかったのでしょうか?それには、日本の労働運動の歴史が関係しています。
戦後の労働運動 – 二つの流れ
第二次世界大戦後、日本の労働運動には大きく分けて二つの流れがありました。
- 総評(日本労働組合総評議会)系:おもに公務員中心で、社会党を支持
- 同盟(全日本労働総同盟)系:おもに民間企業中心で、民社党を支持
この二つの流れは、政治的な考え方や運動の方法に違いがありました。
連合の誕生 – 大同団結の試み
1980年代後半、労働運動の力を強めるために、これらの異なる流れを一つにまとめようという動きが起こりました。そして誕生したのが「連合」だったのです。
しかし、ここで問題が。共産党系の労働組合は、他の組合とは考え方があまりにも違うとして、連合には参加しませんでした。そして独自の組織「全労連」を作ったのです。
なぜ共産党系は連合に合流しなかったの?
ここで疑問が湧きますよね。「労働者のために活動するなら、みんなで力を合わせた方がいいんじゃないの?」と。
実は、連合と共産党系の労働組合では、労働運動の進め方や目指す社会の姿に大きな違いがあったのです。
連合の考え方
- 経営者側と対話を重視
- 現実的な要求を段階的に実現
- 資本主義社会の中で労働者の権利を守る
共産党系の考え方
- 階級闘争を重視
- 資本主義そのものの変革を目指す
- より急進的な運動方針
このように、根本的な部分で考え方が違っていたため、一緒に活動するのは難しかったのです。
職場での競合関係
さらに、連合と共産党系の労働組合は、実際の職場でもライバル関係にあります。同じ会社や業界で、労働者の支持を競い合っているのです。
芳野友子連合会長は、こう述べています:
「連合の組合と共産党系の組合は職場、労働運動の現場で日々競合し、しのぎを削っている」
つまり、労働者の味方として、お互いがライバルなのです。これは、スポーツチームの関係に似ているかもしれません。同じリーグで戦っているライバルチームとは、なかなか仲良くなれないですよね。
イデオロギーの違い
連合と共産党の対立には、イデオロギー(思想・信念)の違いも大きく影響しています。
連合は「自由で民主的な労働運動」を掲げています。これは、資本主義社会を前提とし、その中で労働者の権利を守ろうとする立場です。
一方、共産党は名前の通り共産主義を理念としています。資本主義社会そのものを変革し、新しい社会システムを作ろうとする立場です。
この根本的な考え方の違いが、両者の溝を深くしているのです。
政治との関わり
労働組合が政治と関わるのは、労働者の権利を守るためには法律や制度の改正が必要だからです。しかし、ここでも連合と共産党の立場は異なります。
連合は主に立憲民主党と国民民主党を支援しています。これらの政党は、現在の政治システムの中で改革を進めようとする立場です。
一方、共産党は独自の政党として活動し、より根本的な社会変革を目指しています。
選挙での対立
この違いは、選挙の際に顕著になります。2021年の衆議院選挙では、立憲民主党が共産党と限定的に協力することを決めました。これに対し、連合は強く反発しました。
芳野会長は、「共産党の閣外協力はあり得ない」と述べ、さらに「現場では選対にも共産党が入り込んで、両党の合意をたてに、さらなる共産党政策をねじ込もうとする動きがある」と批判しました。
この発言は、連合が共産党をいかに警戒しているかを如実に示しています。
若者の視点から見ると…
ここまで読んで、若い人たちは「なんだか古い対立じゃない?」と思うかもしれません。確かに、連合と共産党の対立の根っこは、戦後の労働運動にまでさかのぼります。
現代の若者にとっては、「資本主義 vs 共産主義」という図式自体が、どこか遠い世界の話に感じられるかもしれません。むしろ、労働者の権利を守るという共通の目的のために、協力できないのはもったいない…そう感じる人も多いでしょう。
これからの労働運動に求められるもの
実は、連合内部でも変化を求める声が出ています。日本女子大名誉教授の高木郁郎氏は、こう指摘しています:
「連合があまりにも政府と協調路線を取りながら政策実現をめざしてきた。いわゆる『インサイダー化』が問題だったと思います。労働者よりも霞が関の方を向き、厚生労働省の審議会に出てくる資料を尊重している。やっぱり労働者の現実を直視して大衆運動を組織する側面もないと、何かを大きく推進できません」
つまり、連合にも変化が必要だという声があるのです。
まとめ:複雑な関係の背景にあるもの
連合と共産党の対立は、一見すると「仲間割れ」のように見えるかもしれません。しかし、その背景には:
- 戦後の労働運動の歴史
- イデオロギーの違い
- 運動方針の違い
- 職場での競合関係
- 政治との関わり方の違い
など、様々な要因が複雑に絡み合っています。
この対立は、日本の労働運動の歴史そのものを反映しているとも言えるでしょう。
未来への展望
では、これからの労働運動はどうあるべきでしょうか?
急速に変化する労働環境、増加する非正規雇用、デジタル化による仕事の変容…。現代の労働者が直面する課題は、従来の枠組みでは捉えきれないほど複雑化しています。
もしかしたら、連合と共産党の対立を超えた、新しい形の労働運動が必要なのかもしれません。労働者一人一人の声に耳を傾け、多様な働き方を支援できる、柔軟で強力な運動が求められているのではないでしょうか。
労働運動の未来は、私たち一人一人の手にかかっています。自分の働き方や権利について考え、声を上げていくこと。それが、より良い労働環境を作り出す第一歩となるのです。
連合と共産党の複雑な関係は、日本の労働運動の歴史を映し出す鏡です。この関係を理解することで、私たちは労働者の権利や働き方について、より深く考えるきっかけを得られるのではないでしょうか。